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「東京の夜は悪夢のように美しい」

東京デーモン

内山 英明 撮影

本体価格: 3000円+税


判型:B4変形 /ソフトカバー
ページ数:104
初版年月日:2005/04/07
ISBN:4-7572-1128-7
ASIN:4757211287

【快挙!第25回土門拳賞&2006年日本写真協会賞 年度賞同時受賞!】写真家内山英明氏が受賞しました。おめでとうございます。

 「地下ブーム」の嚆矢となった写真集『JAPAN UNDERGROUND』、『JAPAN UNDERGROUND㈼』の著者・内山英明がもうひとつのライフワークとして撮り続けた「誰も見たことのない東京の風景」。その作品群から東京および近郊の夜景に絞り、未来と過去が混在する不思議な光景を現出させた写真集。

※6月26日(日)朝日新聞朝刊読書欄に『東京デーモン』の書評掲載!評者は立松和平さん(作家)、絶賛です。
※『東京デーモン』が週刊朝日6月10日増大号(5月31日発売号)週刊図書館のコーナーに書評掲載。
※『東京デーモン』北海道新聞5月8日(日)朝刊「ほん」のコーナーに書評掲載。評者、作家吉岡忍さんで「写真と言葉に喚起される新たな表象」と題し、「内山英明の『東京デーモン』は強烈な写真集だ」と絶賛です。
※『東京デーモン』が「Voice」6月号(PHP研究所:5月10日発売)ワンポイント書評に掲載されました。
※週刊文春4月21日号(4月14日発売)巻末見開き4ページで、大きく特集されました。

その他情報

Other Information

【著者プロフィール】内山英明(うちやま ひであき)
 1949年静岡県菊川町生まれ。東京総合写真専門学校中退。1981年「アサヒグラフ」誌上で初めての連載を開始。同年から週刊誌、月刊誌上でドキュメント写真の発表を開始する。1985年《迷宮都市》に惹かれ東京、アジアや欧州を中心に撮影を始める。1992年 エイズが猛威をふるった年、HIVに冒され、日本で最初にカミングアウトした平田豊の支援活動と撮影を2年間、仲間たちと続ける。1993年よりTOKYOの未来空間をライフワークとして取り組み始める。撮影中、偶然に潜った東京の地下世界に強く惹かれ、今日まで日本の地下世界を撮り続ける。写真展「JAPAN UNDERGROUND」で第25回伊奈信男賞受賞。
【写真集】『等身大の青春−俵万智』(深夜叢書)、『都市は浮遊する』(講談社)、『いつか晴れた海で〜エイズと平田豊の道程』(読売新聞社)、『JAPAN UNDERGROUND』、『JAPAN UNDERGROUND㈼』(以上アスペクト)
【受賞】2000年度 第25回伊奈信男賞

 子供の頃、夜の世界は母親の懐のように広く柔らかく、深々として甘美だった。晴れた日には町のどこからでも星々が美しく輝くのが見えた。しかし私は感じていた。その柔らかな夜の層を剥がすと、奥には暗黒の深淵が巨大な口を覗かせて息づいていることを。世界は優しさと恐怖で充ちていた。性への目覚めと同様に死は、多感な少年の中に終わりのない物語のようにそっと忍び込んでいた。その頃の夜は本当にしみじみと暗かった。

闇の底深く沈みゆくTOKYOの街の耽美(たんび)な輝きは心までも空虚にさせる。夜の帳(とばり)が下り、まだ人々の体温が残る街の迷路を長い時間歩いていると、体から意識だけが剥がれて夜の街を浮遊していくような法悦と不安が交錯する。街路の背後ではハリボテのように屹立するメガシティの強烈でSF的な明かりが闇に沈みゆく下界を鈍く照らしだす。その光景は昼間の圧迫感や呪縛から見る者を解き放つに充分な魔性の輝きで溢れていた。そんなときだ。吹き渡る一陣の風とともに物狂いするような爽快な淋しさが突然、胸を突き上げてくるのは……。夜の中にポッカリとした裂け目が広がる。裂け目から幻のように現出するもうひとつのTOKYOの姿、その一瞬の『刻(とき)』の姿が私は好きだ。その『刻』は場所を選ばず夜の街に魔法のごとく出現する。それは都心であったり、高層ビルの屋上であったり、人気(ひとけ)のない公園や暗い海辺の埋立地であったりした。過去と現在がひとつに溶け合った奇妙な近未来の風景は、裸のままで眠っていた私の中の荒涼とした無意識の世界を突き破り揺り動かしてくれる。

——過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい。——このフレーズは闇と光が交錯する悪夢のように美しいTOKYOの夜の魔窟にこそふさわしい。この魔窟からは乾いた成層圏の懐かしい匂いがする。闇の街にはきっと時空をつなぐ通底器がひっそりと隠されているのだ。暗い闇が街に滑り込む時刻、決まって訪れるとめどない喪失感……。その失われた故郷への道をたった一人で辿っているような深い孤独こそ、私をTOKYOの夜の世界に駆り立てる大きな原動力となっていた。

 古代、都市国家(ポリス)の時代より歴史上に浮かんでは消えていったさまざまな都市と同様に、TOKYOも悠久の歴史の中に鮮やかに咲いた一瞬の徒(あだ)花(ばな)にすぎない。絶えざる細胞の死と誕生によって生まれ変わる私たちの命と、絶えざる変転を宿命的に内包する都市の姿は、そのはかなさ(・・・・)と相まってどこか似ている。

 近代の歴史は言い換えれば社会から闇(デーモン)を追放しようとした歴史であった。しかし人間の心の中からも世界からも闇を追い払うことはできなかった。私たちの体に得体の知れぬもののけ(・・・・)が棲む限り、都市はその魔性の輝きを失うことは決してないだろう。都市とは時空を超えて輝く《迷宮》であり、決して辿り着くことのできない《城》でもあり、そして私たちを引き寄せずにはおかない強大な《磁場》でもある。
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 TOKYOの夜は私が永年抱き続けてきたテーマのひとつだった。このテーマもアスペクト編集長・宮崎洋一氏のいつもの無言の激励と圧力がなかったら未完成だったかもしれない。アートディレクターの前橋隆道氏にも本書の制作で大変お世話になった。謹んで御礼を述べたい。
2005年2月1日 内山英明

[English version]
In my boyhood, night seemed like a vast, deep world, yet its darkness embraced me with motherly softness and sweetness; on clear nights a myriad of shining stars could be seen from anywhere in the town. And yet, I knew that once this soft veil was taken away, there lay beyond it a deep chasm of death, opening its mouth wide and dark. In those days, the world seemed replete with a mixture of tenderness and fear. Along with my sexual awakening, the awareness of death crept silently into my susceptible adolescent heart, like a story that would never end. Night now seemed pitch black to me.
 In contrast to such deepening darkness, the brilliant splendor of Tokyo nights makes my heart feel empty. I often take long walks after dark in the labyrinth-like streets, so recently deserted that the residual heat of the crowds still lingers in the air. It makes me feel as though my mind is drifting away from my body and floating about in the city, a feeling at once both ecstatic and uneasy. The skyscrapers of this megalopolis seem to illuminate the underground world with a dazzling, other-worldly light.
 The night scenery can be magical and mysterious, releasing me from the spell of daytime oppression. Then, suddenly, a powerful feeling of loneliness gushes upwards in my soul like an icy wind, and a crevasse opens up in the night. And for just a moment I see through that crevasse a very different Tokyo.
 I adore that special moment in the nighttime city. It may happen anytime, anywhere; I encounter it on high-rise rooftops, in desolate public parks or landfills by the darkened beach.
 The awareness of this bizarre, near-future landscape, where past and present melt into one, shatters the bleak, unconscious world that slept naked within me.
 ‐The past is always new and the future is always nostalgic‐what a perfect way to describe Tokyo nights, so evil and yet so stunningly beautiful. Tokyo is a demon’s cave where darkness and light grapple with one another, where the nostalgic scent of dried-out atmosphere lingers. I believe there must be some strange, hidden communication device that links both space and time. Whenever darkness slips into the city, I cannot help feeling a deep undertow of loss… This strange sense of loneliness… it is as if I were walking alone towards my long-lost home. And it is this emotion that calls to me, urges me to go wandering into the night of this wonderful, terrible city.
Like all the cities that have once strode upon the stage of mankind’s long history, Tokyo is but the bloom of an ephemeral flower. Human life is not static, but changes minute by minute, as trillions of cells pass through the cycle of death and birth; in the same manner, cities will daily evolve and change. Humans and cities, how alike we are, so transient, so fragile.
Modern history is the history of ousting demons from our society. Yet the demons could not be driven away completely, not from our hearts nor from this world. As long as evil continues to dwell within us, cities will never lose their evil glitter. Cities are like labyrinths that continue to shine beyond time and space, like castles that you can never reach, each a magnetic field whose power we cannot resist.
“Nighttime Tokyo” was one of themes I have been pursuing for many years. But completing this as a book would not have been possible without the quiet, steady encouragement and creative pressure of Yoichi Miyazaki, editor-in-chief of Aspect. I would also like to thank the art director, Takamichi Maebashi, for all his support.

February 1st, 2005
Hideaki Uchiyama

◆週刊朝日6月10日増大号(5月31日発売号)週刊図書館のコーナー書評

 「この写真集に登場するのは夜の風景ばかりだ。見慣れているはずの東京が、異次元空間の不気味さで迫ってくる。卒塔婆の間にぽっかり浮かぶ東京タワーは黄泉の世界からの眺めを、廃墟に見える解体中のビル群は人類の終末がすぐそこに来ている錯覚を、感じさせる。いまや失われた風景も多い。タイトルは決して誇張ではない」。

◆北海道新聞5月8日(日)朝刊「ほん」 評者:吉岡忍(ノンフィクション作家)

「写真と言葉に喚起される新たな表象」

 内山英明の「東京デーモン」は強烈な写真集だ。超高層ビルが林立し、そのしたで木造アパートがうずくまり、ゴミが産卵し、公園ではコンクリートや鉄でできた動物が吠えている……そんな都会の夜景ばかりを切り取った写真が並んでいるのだが、ここから匂ってくるのは、われわれの日常空間がまったく別のものに置き換えられ、埋め尽くされた認識である。

 ここにはリンゴやカップや鉛筆のたとえ話など、入り込む隙間がない。怠惰な感受性は頬をひっぱたかれる。「夜の公園でステンレス製の魚が泳いでいます。この魚は……。さあこのあとの話はどうなるでしょう」と問われて答えに詰まるようなら、あなたは現実を生きていない。写真集はそう迫ってくる。

◆「Voice」6月号(PHP研究所:5月10日発売)ワンポイント書評

 読者の方々は黄昏どきに街を歩いて、慄然とした気持ちに襲われた経験はあるだろうか。この写真集が見せるのは、そんな恐ろしくも美しい「逢魔が刻」の数々である。われわれの暮らしている都市の奥底に、これほど暗く、強い輝きが隠されていたとは。著者は記す。夜の魔窟たる都市TOKYOにおいて「過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい」。広間の倦怠と抑圧に飽きた人がいたら、これまで目に映っていても見えなかった「東京デーモン」の姿を探しに、出かけてみてはいかがだろうか。

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