ビジネス : 第8回 「謙虚さ」や「遠慮」が、海外とのビジネスで障害にもなり得るという現実

第8回 「謙虚さ」や「遠慮」が、海外とのビジネスで障害にもなり得るという現実

第8回 「謙虚さ」や「遠慮」が、海外とのビジネスで障害にもなり得るという現実
 海外とのビジネスで痛感させられるのは、日本人の美徳とされる「謙虚さ」や「遠慮」の〝取り扱い方〟です。
 〝取り扱い方〟というと変な言い方ですが、海外とのビジネス経験のある方はよくおわかりだと思いますが、この「謙虚さ」や「遠慮」はほとんど役に立ちません。なぜならば、彼らに「謙虚さ」や「遠慮」という発想が、まずないからです。もちろん、優しい人や親切な人はたくさんいます。でもビジネスの現場で、「謙虚さ」「遠慮」を持ち出しても、より良い契約締結ができたり、ハードルを越えたりすることはないと思った方がいいでしょう。
 その理由のひとつは、彼らがビジネス上で長いお付き合いということを前提条件にしていないということがあると思います。もちろん、「末長く良好な関係を結びましょう」と言いますが、それが本心と思わない方がいいでしょう。それがいいとか悪いとかいう問題ではなく、海外の常識において、自分たちのビジネスは、永遠に成長する過程の中にあると思っているし、ビジネス環境は常に変化するものだと信じているから仕方がないのです。
 たとえば、「長いお付き合いのためにはここは10円まけるか…」という発想に日本人は陥りやすいのですが、これはダメです。彼らの発想は「では競争相手が20円まけたらどうするのだ?」と考え、価格競争になってしまうだろうと思うからです。
 世界で100年続く企業の約80%は日本企業だと言われます。長期的なビジョンを持ち、長く続く信頼関係を重要視してきたひとつの証拠だと思います。けれど、その発想が海外とのビジネスで有効かどうかは非常に難しい問題だと言わざるを得ません。
 ただし、「謙虚さ」や「遠慮」がまったく武器にならないかというと、そうでもないとも思います。「日本の高度成長を支えた理由」を海外のシンクタンクが研究しています。その中で、人件費を販売管理費に含まず、資産としてとらえてきた日本企業の特色が指摘されていますし、何でも数値目標でビジネスの成否を決める欧米型のビジネススタイルに疑問を持ち始めた海外の会社は少なくありません。
 ひょっとするとこれからの時代は、「謙虚さ」を壊さずに、新しいビジネスモデルを作
りあげた会社が伸びるのかもしれないのです。


本連載の記事はすべて小社刊『ヒットを生み出すインスピレーションの力学、共感という魔法 ――東映、ディズニー、東宝東和で学んだ仕事のヒント』に収録されています。



鈴木英夫(すずきひでお)
1962年、神奈川県横浜市生まれ。1985年、東海大学文学部広報学科卒業。同年4月、東宝東和株式会社入社。1996年2月、ブエナ・ビスタ・ジャパン株式会社(現ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)入社。2000年4月、エグゼクティブ・ディレクター/宣伝本部長に就任。2005年11月、日本代表に就任。2010年3月、退任。2010年6月、東映株式会社入社、執行役員 国際営業部長。2014年6月、執行役員 映画宣伝部長。その他、2012年7月〜現在、経済産業省 留学検討委員会(平成25年度より国際人材育成委員会)委員。2013年1〜5月、NHK経営委員会NHK『外国人向けテレビ国際放送』の強化に関する諮問委員。