ビジネス : 第11回 都知事選を機に活躍の場と人脈が広がる

第11回 都知事選を機に活躍の場と人脈が広がる

第11回 都知事選を機に活躍の場と人脈が広がる
 独立した当初は全く予想していませんでしたが、参院選の東京選挙区、都知事選と社会的注目度の高い首都の選挙に参加したことで私自身も活躍の場や人脈が大きく広がっていきました。
 都知事選当時は講談社のウェブメディア「現代ビジネス」で同時進行ドキュメンタリーの連載を書かせてもらい、さらに選挙後には、ビジネス系のネットメディアで急成長していた東洋経済新報社の東洋経済オンラインで、私のネット選挙フロンティア体験を連載で書かせてもらうことになりました。この連載の記事の一つが後に東京エフエムの番組スタッフの目に止まり、選挙2ヶ月後の14年4月には初めてラジオ番組の生放送のゲストに呼ばれる機会も得ました。
 一方、私の主要発信拠点でもある「アゴラ」では、主宰者の池田信夫さんにも都知事選を機にお声がけいただくようになりました。アゴラ編集部の打ち合わせに週1回、参加させてもらっており、政治経済の問題や媒体の運営方針について意見交換しています。
 アルファブロガーとしてもおなじみの池田さんの鋭い視点と豊富な知識に毎回勉強させてもらっていますが、私が瞠目したのは朝日新聞の従軍慰安婦報道を追求したときの分析力です。問題発生時の記事等の公開資料を丹念に調べ上げ、矛盾や問題点を発見していくプロセスは、新聞記者や週刊誌記者が足を使って取材するのとは違う、資料分析による調査報道の凄みを見せつけられました。NHK時代に報道番組等のディレクターを勤められた経験が伊達ではないと感じます。
 このほかにも選挙を通じ、堀江貴文さん、乙武洋匡さんら著名人との出会いがあったのはすでに先述したとおりですが、ほかにも各分野で活躍する一流の方ともつながりができました。
 タリーズコーヒージャパン創業者で参議院議員の松田公太さん、クラウドファンディング等で日本の社会起業家を代表する佐藤大吾さん、NHKアナウンサーを辞めて理想の市民メディアを追求するジャーナリストの堀潤さん、ノマドブームを先導した安藤美冬さん、子育て問題の論客で知られるNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん、「意識高い系」の言葉を流行らせた常見陽平さん、選挙業界で若手のナンバーワンプランナー松田馨さん、地方議員ブロガーで知られる都議会議員の音喜多駿さん……。
 ここでお名前を出していない著名な方もおられますが、いずれにせよ、記者時代を含めてもサラリーマンではあり得なかった幅広いジャンルの多士済々な第一人者と交流させてもらっています。
 ただ、このくだりを読んだだけだと、単なる「リア充」人脈自慢に思われそうですが、それは私の本意ではありません。
 大手新聞出身といっても、しがないサラリーマン記者上がりでしかなかった私が短期間に「すごい人たち」とお知り合いになろうとは、私も独立当初は全く想定していませんでした。最大の転機はやはり選挙戦の候補者との出会いです。鈴木寛さん、家入一真さん、お二人の周りには時代をクリエイトする気風をお持ちで実績も出されている方々が多く、私自身も選挙戦を通じてつながりを得るきっかけが得られました。
 人脈はプラスのサイクルに入ると、知名度を問わず、本当に素晴らしい、一流の方々に出会えます。反面、マイナスのスパイラルに入ると、どんどん悪い「虫」につきまとわれます。独立当初、怪しげな起業セミナーに間違えて参加したり、経営者が大言壮語する割に全く発展していないベンチャー企業に商談に行ってしまったりしたのですが、大事にならくなってよかったと思い出すだけでも背筋が凍ります。
 私はネット選挙解禁を機に、選挙や政治の世界をのぞくようになったのですが、候補者がメディアに露出することがないローカルの区議会や市議会議員選挙の仕事を手伝うようになってからは、「ドブ板選挙」や「地上戦」、つまりそこで求められるリアルでのコミュニケーションの意義を見直しています。
 人を動かすことは容易ではありません。本書をお読みの方で「明日までにゼロから10人を集めて集会を開きなさい」と言われて、「余裕だよ」という人は少ないでしょう。最近の大学生はLINEチャットでは饒舌なのに電話をしない傾向があるようですが、集会に足を運んでもらう、チケットを買ってもらう、選挙で票を入れていただく、といったことは、人に会って頭を下げて説得するというタフなコミュニケーションが求められます。
 そして、同時に思うのは、新聞記者時代に取材先や上司との交渉事という形で、リアルなコミュニケーションの基本を鍛えられていたということです。
 取材先からオフレコを条件に面白い秘話を聞かされたとしましょう。しかし取材後に記事を書いていくうちにどうしても必要に感じてしまうことがたまにあります。ごくたまに「オフレコ」破りをする不届きな記者もいますが、私は必ず事前に交渉をすることにしていました。
 相手の表情や反応をうかがいながら、あるいは電話でも息遣いから表情を脳裏に浮かべながら、問答や説得、交渉を続けるうちに苦心して苦心して、私も相手も納得してもらう記事ができていきます。
 いまは記者を離れましたが、そうした体験があったからこそ、人脈作りにも生かされているのではと感じます。特に著名人やオピニオンリーダーと言われる方は忙しいので、学生時代の友人のように気軽に飲みに誘ったり、FacebookやLINEで無駄話チャットをしたりというわけにはいきません。お仕事のご相談なり、お願いなり、その方のお友達のご紹介なり、情報収集なり、それなりの「要件」が発生することが大半でしょう。逆にこちらに依頼を持ち込まれることもあります。
 時には条件が合わずに頼みごとが成立しないこともあるでしょう。それでも面白いのは、厳しいやり取りを経るうちにコミュニケーションは濃密になるので、むしろ親しくなるかもしれません。ましてや表に出せないようなセンシティブな裏情報を共有できるようになれば、それはもうお互いに信頼をしている証しと言えるのではないでしょうか。

【人生を棒に振らないための教訓6】
人脈はリアルで生まれる。ネットはそれを生かすためのテコ
 鈴木寛さんとの出会いで知った言葉に「ソーシャルキャピタル」があります。社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表し、その結びつきが活発化することで社会に新しい価値を与えようという考え方です。日本語で「社会関係資本」と訳され、近年、物的資本や人的資本と並び称されようになっています。
 SNS全盛のご時世なので、ネットでもリアルに劣らない濃密なコミュニケーションが可能な時代です。もちろんネットをきっかけにした出会いはありますが、仕事でも趣味でも何かを共創して社会に新たな価値を与える、つまりソーシャルキャピタル的な考え方に基づいた関係を目指すのであれば、やはりリアルで互いに信頼を築いた上でなければ難しいのではないでしょうか。
 さて次は最終回。インターネッ党の騒動が一段落した後の話をしましょう。(続く)

●新田哲史(にったてつじ)
言論プラットフォーム「アゴラ」編集長/ソーシャルアナリスト
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞東京本社入社。地方支局、社会部、運動部で10年余、記者を務めた後、コンサルティング会社を経て2013年独立。大手から中小ベンチャーまで各種企業の広報や、政治家の広報・ブランディング支援を行う。本業の傍ら、東洋経済オンライン、現代ビジネス(講談社)で連載。ブロガーとしてアゴラ、ブロゴス等に寄稿しており、2015年10月からアゴラの編集長を務める。