ビジネス : 最終回 無名の会社を全国区にする喜び

最終回 無名の会社を全国区にする喜び

最終回 無名の会社を全国区にする喜び
 インターネッ党の騒動が一段落した後の話をしましょう。
 表向きはアゴラや東洋経済オンライン等のネットメディアで記事を書きつつ、本職では「企業広報アドバイザー」を名乗り、選挙や企業のコミュニケーション戦略、メディア戦略づくりのお手伝いをしています。
 大企業のPRプロジェクトに参加させてもらい、市場調査や報道分析、メディア戦略の立案をお手伝いすることもありますが、中小企業や個人事業主さんの案件を直接受注することもあります。大企業のような多額のフィーが発生するケースは少ないのですが、実質的に私がゼロから最後まで「参謀」としてお手伝いできるのと、無名の会社を全国に紹介してもらうやりがいが非常にあります。
 そんな中、私が文字通り、独立してから自分で人脈を開拓し、自分で受注して「成果」を出せたと実感する案件がありました。
 その会社は岐阜市内で家族で経営するコーヒー豆の販売事業者です。社長は私と同じ年の方なのですが、私が独立当初に岐阜県と大手人材会社のお招きで岐阜に講演出張した際、オーディエンスとして知り合いになりました。
 講演から8か月後。Facebookで久々に連絡をされてきたのですが、なんでも新規事業を始めるにあたり、なんとかメディアの取材を受けられないかご相談を受けたのです。その事業内容を聞くと、いわばコーヒー豆版の“楽天市場”。全国にいる中小のコーヒー豆の販売事業者から豆を提供してもらい、ネット上に一大ショッピングモールを作って大手のコーヒー豆業者に対抗するという戦略というのです。
 岐阜県の助成金対象事業として認定されたと聞いて、興味を持った私はプレスリリースの製作をお手伝いすることにしました。当初は、豆を提供する参加事業者向けの資料を読ませてもらったのですが、いまひとつピンと来なかったので、彼が事業認定にあたって県に提出した事業計画書を見せてもらうことに。すると、市場分析の内容がよく練られているだけでなく、「コーヒー豆販売に特化したネットショッピングモールは日本初」という斬新な取り組みにメディア戦略上の勝ち筋を見出せました。
 さらに話題性のあるコンテンツが見つかります。社長とお付き合いする中で知ったのですが、実は岐阜県民は総務省の統計で、年間一人あたりがコーヒーを飲む量が都道府県で1位になった年があるとのこと。コメダ珈琲に代表される中部地方の喫茶文化という地域性を感じさせます。私は「コーヒー好きが日本で一番多い岐阜からネットを使って全国に打って出る」というストーリーを提案し、さっそくプレスリリースを製作しました。
 リリースを納品して一週間ほど。社長から「結果」が報告されていきます。すると全国紙の岐阜支局から地元紙まですべて取材を受け、地元で大々的に露出。そして地方都市の小さな会社を取り上げるのが珍しい日経新聞が中部版(愛知、岐阜、三重)で、準トップの扱いで掲載してくれました。
 ちなみにトップ記事はトヨタ自動車の記事。「トヨタの隣にうちのお店が載るなんて」。社長が嬉しそうにFacebookでみなさんに報告するのを喜んで見ていたのもつかの間、今度はテレビ東京から取材オファー。なんとワールドビジネスサテライト(WBS)のコーヒー特集で取り上げられました。私は込み上げてくるものを感じながら、テレビの映像を見つめました。
 都知事選を機にメディア露出が増えた選挙関連でも、政治家や政党関係者の方からご相談を受ける機会が増えていきました。
 肝心の収入状況はというと、まだまだなのがお恥ずかしいですが、同年下半期には、月収ベースではようやく記者時代を含めてサラリーマン時代を上回る月が続くようになりました。もちろん、「食べていければいい」というのでは、フリーランスのリスクを取っているだけのリターンとしては物足りません。
 経済的には、年収ベースで記者時代を上回ることが当面の目標ですが、精神的な充足性も私は重視しています。
 私は社会人スタートから10年余り過ごした新聞社で、公益性の観点から社会を見つめる視点、現代社会の「ノブレス・オブリージュ」的な考え方を植えつけられてきました。そのため、単にお金を儲けるだけではなく、社会問題を提起したり、解決策や近未来像を提示したりすることへの関心、あわよくばビジネスと社会的課題の解決を両立させたいという思いが、実業界出身の起業家やフリーランスの方々よりも強いのかもしれません。
 2014年春の統一地方選挙に際して、東海地方の市議会議員選挙に無所属で出た30代男性ら新人候補者の選挙準備をお手伝いしました。あいにく私は現地に行けなかったので遠隔でのサポートに。しかも本人は選挙戦まで1ヶ月を切ってから出馬を表明するという準備不足が明白な状況だったのですが、コミュニケーション戦略や政策づくり、はては演説や握手の仕方のアドバイスまで、東京からでもできるだけのことを精一杯やらせてもらいました。地元ラジオ局で「初めて本格的なネット選挙をする候補者が現れた」と取り上げられ、新人でトップ当選を果たしました。

【人生を棒に振らないための教訓7】
自分の特技・個性を発揮して社会参画することが最上の喜び
 職業選択においては、内面から沸き起こる「内発的動機」を基盤にして、金銭や地位といった「外発的動機」もある程度満たせるように両立できることが最高のシナリオだと考えます。そのためにはあらかじめ「自分だったら社会にどうやって貢献できるのだろう」と、あらかじめ自分の得意なことをしっかり分析して理解しておくことが大切です。
 もちろん仕事において、特に30代以降はキャリアの基盤が固まってくる方がほとんどでしょうから、自己分析・スキルの把握はできているのでしょう。ただ、もしある種のマンネリを感じているようであれば「私だからこれができる」という機会や環境を仕事以外に求めるのも一手です。近年は東日本大震災を機に「プロボノ」といって、職業上の知識・スキル・経験を活用して社会貢献する人も増えていますが、私ならライティングやマーケティングの知見を生かすところでしょうか。プロボノ的視点で業務以外に動いてみると、あなただからこそ味わえる喜びを得られます。

 連載は今回で終了ですが、本書では連載の続きはもちろんのこと、連載内容より、もっと踏み込んだ内容、そして凡人が著名人や有識者とどう人脈を作り、変化の激しい時代の生き残り戦略を作っていくべきか、筆者の体験、取材経験に基づき、振り切った内容・提案をお届けします。ぜひ書籍でお会いしましょう。(終わり)

●新田哲史(にったてつじ)
言論プラットフォーム「アゴラ」編集長/ソーシャルアナリスト
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞東京本社入社。地方支局、社会部、運動部で10年余、記者を務めた後、コンサルティング会社を経て2013年独立。大手から中小ベンチャーまで各種企業の広報や、政治家の広報・ブランディング支援を行う。本業の傍ら、東洋経済オンライン、現代ビジネス(講談社)で連載。ブロガーとしてアゴラ、ブロゴス等に寄稿しており、2015年10月からアゴラの編集長を務める。