ビジネス : 第9回 家入一真と選挙イノベーション

第9回 家入一真と選挙イノベーション

第9回 家入一真と選挙イノベーション

 起業家の家入一真さんと初めて対面したのは、2013年12月26日夜。年の瀬も押し迫った六本木のクラブで、開かれた誕生パーティーのことでした。
 実は、家入さんのことは、その頃までほとんど存じていませんでしたが、当時、東京都知事だった猪瀬直樹氏が収賄疑惑で突然辞任し、年明けに実施が決まった都知事選に向け、家入さんが「1000リツイート行ったら出馬する」と参戦をほのめかしたことから興味を持ってはいました。
 問題は家入さんの真意がギャグなのか本気なのか。それを確かめに行くと、意外や意外、ハンガリーのインターネット民主党(IDE)などの事例をよく研究していて、テクノロジーを駆使した直接民主制を目指す海外の動きをいきいきと語ったのが印象的でした。
 「日本でもインターネッ党っていうのができないかと思っているんですよ」
 これは「出馬に本気だ」とは思いました。ただ、投資の失敗や遊興で散財した家入さんがその時点では、供託金の300万円を用立てる目処が立っておらず、具体的に協力するかまでは進みませんでした。
 年が明け、都知事選が近づくにつれ、様々な候補者が名乗りを上げ始めます。ところが有力候補はおろか泡沫候補ですら50代以上の男性ばかり。おまけに選挙前の公開討論会で、本命とみなされた舛添要一氏らが参加を辞退して2度も流会したことに、一都民として私は既存の政治家たちに怒りを感じていました。そんな矢先、家入さんと共通の知人から「相談に乗ってやってほしい」と連絡があり、彼と再会します。
 「誰もがネットでお金を集めて選挙に出る事例を作りたい」
 もちろん家入さんが出馬しても当選には程遠いことくらいは分かります。しかし、ネットを活用して民意を掘り起こし、新しい選挙のあり方を既存の政治家やメディアに提示することができれば、日本のネット選挙の進化を早められるのではないか。参院選で挫折した私は、ジャスダック市場で最年少の上場起業家という「天才」を擁し、既成概念を覆す画期的な選挙戦をして世の中にインパクトを与えたいと思いました。
 広報戦略を引き受けた私は、出馬の記者会見が重要だと思っていました。
 当時の家入さんのツイッターのフォロワー数は6万程度と記憶していますが、テレビによく出演していたわけではないので、ネット業界以外の一般の知名度が圧倒的に低いのが実状でした(参考までに山本太郎氏のツイッターフォロワー数は当時20万人超)。
 ただし家入さんだけの出馬表明会見だと、私ですら彼を知らなかったので、下手をすれば完全な「泡沫候補者」扱いで記事やオンエアがゼロになるリスクを想定しました。そこで私は何が何でも堀江貴文さんに応援団として同席してもらいたいと思っていました。

 家入さんに供託金を貸していただけるとの話も聞いていたので、家入さんを通じて同席をお願いしたところ、快諾いただきました。都庁の記者クラブに会見の連絡を入れた際、同席者として堀江さんの名前を挙げたところ、電話の向こうで記者が息を飲む様子が伝わります。目論見通り、なんとか最低限の露出を勝ち取ることができました。
 堀江さんには個人的にもメールで激励いただき、今でも心より感謝しています。
 2014年1月23日に都知事選スタート。家入さんらしい型破りな活動で序盤から話題を巻き起こします。
 特に斬新といえたのは、インターネットを活用した有権者とのリレーション方法です。
 まずは、そのアイデアが家入さんから出た時、スタッフが「選挙のイノベーションですね」と驚嘆したのが「ぼくらの政策」。ツイッターで、「#ぼくらの福祉政策」といった具合に、5つの政策課題(福祉、都市計画、行政改革、防災危機管理、オリンピック)ごとにアイデアを募りました。
 「僕は政策がわからないからみんなに聞いてしまおう」という本人のシンプルな発想から始まった企画でしたが、公約やマニフェストを掲げて有権者に問いを立てる既存の選挙戦と真逆の手法。そこには「政治家のネット活用を見ていると発信ばかりで受信がない」という家入さんの思いがあり、選挙中の双方向コミュニケーションを模索しながら凡才の私には思いつかなかった建て付けに、ネット上は大騒ぎ。選挙戦中盤までに4万近いツイートが集まり、それを優秀な政策スタッフが「120の政策」に落とし込みました。
 もう一つは、ネット上で多数の人から少額ずつ資金を集めるクラウドファンディングを使って選挙資金を調達したこと。日本の選挙史上初の試みにも関わらず、目標額500万円を大きく上回る744万7,500円を調達するのに成功。立候補当初はなかった選挙事務所を構え、選挙カー等の資金を賄うことができました。
 このほかエンジニア系の人たちが続々と参集し、役所のデータをどんどんデジタル化して選挙ポスターの掲示場所をネット上にアップするといった、若い世代には当たり前の、しかし旧態依然の紙ベースの選挙行政に一石を投じる企画を実現していきました。
 こうした取り組みに他陣営のネット選挙担当者からも「家入陣営のネット選挙がすごい」と一目置かれ、既存メディアの中でも先進的な取り組みを好む朝日新聞等の記者が面白がり、取材の問い合わせがどんどん来ました。NHKや朝日は、舛添、宇都宮、細川、田母神各氏と一緒に主要候補に入れてもらい、朝日新聞に至っては最も偉い記者の一人である論説主幹(私も記者時代に会える人ではありません)までが事務所に取材に来てしまい、驚いたものでした。
 しかし「栄光」は一瞬のことでした。(続く)

●新田哲史(にったてつじ)
言論プラットフォーム「アゴラ」編集長/ソーシャルアナリスト
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞東京本社入社。地方支局、社会部、運動部で10年余、記者を務めた後、コンサルティング会社を経て2013年独立。大手から中小ベンチャーまで各種企業の広報や、政治家の広報・ブランディング支援を行う。本業の傍ら、東洋経済オンライン、現代ビジネス(講談社)で連載。ブロガーとしてアゴラ、ブロゴス等に寄稿しており、2015年10月からアゴラの編集長を務める。